翻訳家

翻訳家は食えないは本当か。平均年収と将来性

語学が得意な方や、海外在住経験があって、語学スキルを仕事に生かしたいという方にとって、翻訳家はうってつけの職業。また、実質どんな場所でも仕事ができるので、在宅ワーカーには適した仕事と言えます。
しかし、「翻訳家では食っていけない」という噂のせいで、実態を知らずに翻訳家の道を諦めている、という方も多いのでは?
では、そもそも、翻訳家はどんな仕事で、どれくらいの収入が現実的に得られるのでしょうか。この記事では、そんな情報について、解説していきます。

翻訳家の平均年収とは?

翻訳家の平均年収は、だいたい400万から600万円と言われています。ただし、一口に「翻訳家」と言っても、その働き方は様々。経験や仕事量、分野によっても、収入に差があります。


以下では、翻訳家という仕事の概要や報酬について、詳しく見ていきましょう。


 

翻訳家の平均年収とは?

翻訳家では食えないといわれる理由

昔からよく聞く、「翻訳家では食えない」というフレーズ。これは、翻訳家になるまでに必要な勉強が大変だったり、単価の高い仕事をとるのが難しかったり、といった事情が関係しています。また、在宅でできる翻訳業は、主婦の方が家事や子育て、介護などと組み合わせて働いているケースも。そのような場合、労働時間が比較的短いので、平均年収が相対的に低く計算される、といった背景もあります。


しかし、実際に翻訳家として、生計を立てるだけの収入を得られている人もたくさんいます! 翻訳家として「食える」かどうかは、実際には働き方や、努力次第なのです。


 

翻訳家の働き方

まず、翻訳者の働き方には、大きく分けて、会社員とフリーランスの2つの選択肢があります。


会社員として働く場合、翻訳業務を常設している企業に所属して、その企業の業務にかかわる書類の翻訳を行います。また、映像制作会社に所属して、映像の字幕・吹き替え翻訳を行う場合も。企業に所属すると、福利厚生が受けられ、安定した収入が望めるのは、大きな利点ですよね。また、正社員ではなく、派遣社員としての雇用というパターンもあります。


 


一方、フリーランスとして働く場合は、特定の企業に所属するのではなく、自分で仕事の案件を探します。仕事を探す方法は様々。


・翻訳会社のトライアル試験を受け、合格したらその会社に登録し、仕事を紹介してもらう


・コンテストに応募する


・文芸書の翻訳の場合は、自分で翻訳した原稿を出版社に持ち込む


・翻訳者コミュニティに参加し、求人情報をチェックしたり、人づてで仕事をもらう


 


フリーランスの場合は、クライアントとの契約から納税、社会保険料の納付などに至るまで、自分で管理するのが基本。一方、基本的に在宅勤務で、スケジュールや仕事量を自分で調整できるので、ライフスタイルに合わせて働くことができますね。


初心者は、仕事の案件をとるのが難しいのが現実。そのため、数年翻訳業務で会社に勤務してからフリーランスとして独立する、という方もいます。


 

フリーランス翻訳家の平均年収

フリーランス翻訳家の平均年収は、200万から500万円。しかし、フリーランスは労働時間や単価に幅があります。少ない方だと年50万円程度、多い方だと、なんと1000万円にまで達することも。


フリーランスの場合、報酬は案件ごとに取り決め、翻訳した分量だけ報酬が支払われます。産業翻訳の場合、1文字ごと、または1単語ごとの値段が設定され、文書の分量に応じてひとつの案件の値段を決定します。1文字・1単語ごとの単価は、産業分野によってさまざま。


例えば、一番単価の高い分野は医療系で、クライアント発注時の単価相場は、英→日翻訳で1単語35円~、日→英翻訳で1単語30円~となっています(出典:日本翻訳連盟https://www.jtf.jp/tips/price)。また、翻訳会社を経由して仕事を紹介してもらった場合、マージンが発生します。そのため、翻訳家の取り分はその分低くなります。


文芸翻訳の場合は、出版社が、一回限りで固定の金額を翻訳家に支払う「買い取り方式」と、発売後の売れ行きに応じて報酬が支払われる「印税方式」の2通り。


映像翻訳の場合は、もとの映像の分数に応じて値段が決まります。


 

翻訳家に将来性はあるのか

以上では、大まかに翻訳家の働き方や収入について見てきました。


どんなビジネス分野でも、昨今のグローバル化やAIの台頭による、業界全体への影響は避けられませんよね。


では、翻訳の仕事は、そのような中で、この先将来性はあるのでしょうか? 特に、機械翻訳の普及は、翻訳業界にとって、どのような影響があるのでしょうか? これらの点について、以下で考察していきます。


 

翻訳家に将来性はあるのか

翻訳家には大きく3種類ある

まず、翻訳家の仕事には、大きく分けて「産業翻訳」、「文芸翻訳」、「映像翻訳」の3種類があります。


 


 <産業翻訳>


企業や政府機関の官公庁などからの依頼で行われる文書翻訳のこと。産業翻訳には、様々な専門分野があります。語学の知識だけではなく、それぞれの分野に関する専門知識が必須です。


 


  <文芸翻訳>


文芸書、雑誌、書物などの出版物の翻訳のこと。最もメジャーなのは、海外小説を日本語に翻訳する、小説翻訳でしょう。文芸翻訳では、もとの作品の世界観を読み取ること、作品の中での文化的背景などに精通していることが大切。また、それを読みやすい日本語に訳すための、高い文章能力も必要です。


 


  <映像翻訳>


映画やテレビ番組などで、外国語の映像につける字幕・吹き替え用の翻訳を行う仕事です。字幕翻訳の場合、短い時間に一度しか表示されないテロップを、視聴者がすぐに理解できる必要があります。そのため、簡潔な言葉で、原文のニュアンスを損なわずに訳すセンスが不可欠。一方、吹き替え翻訳の場合は、日本語で自然な台詞になるように、翻訳する必要があります。


 


以上の3種類の翻訳業務の中で、フリーランスとして最もコンスタントに仕事がのぞめるのは、産業翻訳。翻訳業界において、産業翻訳が求人の大半を占めているという実情があります。


 

産業翻訳の専門分野とは?

産業翻訳には、上述した通り、様々な専門分野があります。翻訳家は通常、ひとつの分野に特化して勉強し、高度な専門知識を身に着けます。専門用語などを誤訳せずにその分野の専門家が読んだとしても、違和感のない文章に訳す必要があります。


 


産業翻訳には、大きく分けて以下の6つ。


・IT


・技術・工業


・金融・財務


・法律・契約書


・医学・医療・薬学


・特許・知的財産


大学や大学院でこれらの分野を勉強したことがある人、前職でこれらの分野に携わっていた人は、産業翻訳家としては有利ですね。また、今まで特にこのような分野に関する知識がなくても、自分で勉強して知識を身に着けることで、産業翻訳に参入することは可能です。


 

将来需要が見込める専門分野

では、これから産業翻訳を始める場合、どんな分野に将来性が見込めるのでしょうか。


まず、機械・電気電子などの技術翻訳は、今後もグローバル化の流れで、需要の高い分野。また、現在盛んに開発が進んでいるIT系の翻訳も、引き続き高い需要が続くと言われています。ですので、これから産業翻訳の勉強を始める方には、これらの分野がおすすめです。


一方で、医学、薬学、金融、法律、特許などは、高い専門知識が必要とされ、その分野の知識がない人には参入が難しいことも。さらに、今後も需要が途絶えることはないため、これらの分野で一度仕事をコンスタントに得られれば、これからも安定して仕事を得ることができるでしょう。


 

機械翻訳に置き換わりつつある専門分野

昨今、どんどん性能が上がっている機械翻訳は、いったい産業翻訳にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。


今後も需要が続くと述べた「機械・技術・IT」は、実は比較的機械翻訳と相性がよい分野。というのも、マニュアルや、ユーザー向けのヘルプなどは、もともと簡易な文章で書かれていることが多く、機械翻訳に向いているからです。また、多少日本語が不自然でも、内容が伝わればOKという見方もあり、機械翻訳が実際に浸透してきているようです。


ただし、これらの分野であっても、「マーケティング翻訳」には、人間の翻訳家が不可欠です。「マーケティング翻訳」とは、商品のWebページや顧客向けの資料を翻訳する仕事のこと。こちらは、顧客にいかに商品の魅力や性能を訴えかけるかが大事になってくるので、多少不自然さが残る機械翻訳では、使い物になりません。そのため、より自然で魅力的な文章を書ける、産業翻訳家の仕事が必要になります。


また、社内でのメール等のやりとりなど、公にする必要のない文書については、機械翻訳による代替が進んでいます。しかし、やはり顧客に向けた文書では、まだまだ機械翻訳が完全に普及することはないでしょう。


 

まとめ

翻訳家は、最初は語学や専門分野の勉強が大変で、案件を獲得するのも難しい仕事。しかし、しっかり勉強しつつ実績を作っていけば、フリーランスとして独立することができます。また、分野によっては将来性も十分見込めますし、どこでも作業ができるので、フリーランスで働くには、とても相性のいい仕事と言えるでしょう。


 


次の記事では、フリーランスの翻訳家として活躍するための、具体的な方法について紹介します。

まとめ

written by Minami

プラハ在住の駆け出しチェコ語翻訳家。
過去に、チェコ共和国オフィシャルブログ(https://czechrepublic.jp/author/mina-toyoshima/)にて、チェコ生活日記を執筆しました。