フリーランスの翻訳家として活躍するために
2021-09-01
翻訳家になるには?
まず、翻訳家になるためには、「これさえクリアしておけば必ずなれる」という決まったステップはありません。とはいえ、翻訳家として仕事を始めるには、高い語学力はもちろん、専門知識や日本語運用能力、情報検索能力など、様々なスキルが求められます。そのためには、根気強い勉強が必須。ライフスタイルや経済事情などに応じて、自分に合った勉強の仕方を見つけましょう。
翻訳家になるための具体的な方法について、詳しく見ていきます。
大学・専門学校で学ぶ
ひとつめは、大学の外国語学部や、翻訳の専門学校に通うという方法です。
大学でひとつの言語を専攻してみっちりと勉強すれば、高い語学力や、対象地域の背景知識が身に着けられます。また、履歴書上でも、語学を専攻としてきた証明として、有利に働く可能性が高いでしょう。
・東京外国語大学
・神田外語大学
・大阪大学
・上智大学
・南山大学
・神戸市外国語大学
・北九州市立大学
・南山大学
・関西大学
これらの大学は、外国語専攻をもつ学校として有名ですね。また、大学の外国語学部では、留学プログラムや、語学の資格試験対応の授業が用意されていることも。そのため、翻訳家に必要なスキルを磨くには整った環境と言えます。
しかし、社会人や子育て中の方にとって、大学に入りなおして勉強するというのは、なかなか難しいですよね。
そんな場合には、翻訳専門学校がおすすめです。専門学校には、通学型のスクールや、通信講座など、様々な形態があります。専門学校では通常、2年ほどの過程で、専門とする分野(例えば字幕翻訳・契約書翻訳・文芸翻訳など)について徹底的に勉強します。また、講義や添削を担当するのは、プロとして活躍する翻訳家なので、翻訳の仕事の実感がわきやすいというのも大きな利点。さらに、専門学校が翻訳者ネットワークを提供していたり、翻訳会社のトライアルへとつなげてくれたりすることも。専門学校でしっかり勉強すれば、翻訳家としての道が開ける可能性が高いでしょう。
留学・ワーホリへ行く
ふたつめは、対象言語が使われている地域へ、留学やワーホリにいって暮らしてみるという方法です。
一見、語学の勉強は、日本にいても、やる気や努力次第でいくらでもできる、と思われるかもしれません。しかし、本当の語学力とは、単にひとつの単語を辞書通り日本語に訳せる、というだけではありません。対象地域の歴史や文化、生活習慣などの知識も、正確な翻訳には重要です。また、ネイティブスピーカー独特の言い回しなどを学び取るには、やはり現地で一定期間暮らしてみるのが一番の近道。
そして何より、毎日外国語のシャワーを浴び続けて、その土地の言葉で生活する経験は、語学学習の一番のモチベーションになりますよ。
独学で語学力を磨く
仕事や家庭の都合で、なかなかまとまった時間やお金を確保できない、という方も、あきらめないでください。独学で語学力を磨き、翻訳家になることも、不可能ではありません。
独学で翻訳の勉強をするには、英語であれば、まずは中学・高校レベルの文法をおさらいすることから始めましょう。語彙の勉強も必要ですが、翻訳の際には辞書を引くことが可能ですので、実はそれほど重要ではありません。しかし、文法が分かっていないと、大きな誤訳につながることがあるので、教科書や問題集を使って、文法の基礎を固めましょう。
次に、翻訳の実践を学んでいきます。自分の専門にしたい分野を決め、その分野の基礎知識を身に着けましょう。そして、翻訳家の書いた参考書などを頼りに、翻訳のテクニックを勉強するのも大切。練習として、英語と日本語の訳文が対訳で見られるメディアなどを使って、自分の翻訳能力を試してみるのもおすすめです。
ある程度力がついてきたら、翻訳会社や出版社などが主催する翻訳コンテストに応募してみましょう。コンテストに入賞すると、翻訳会社への登録ができたり、翻訳の仕事を直接任せてもらえたりすることがあります。ここまでくれば、もう翻訳家としてデビューすることができます。
また、コンテスト以外にも、翻訳会社のトライアル試験を受けることは、駆け出しのフリーランス翻訳家にとって必要なステップです。ある程度の力がついたら、どんどんトライアルにチャレンジしましょう。
翻訳家の資格とは
翻訳は、必ずしも資格がないとできない仕事ではありません。しかし、資格を持っていれば、仕事の受注の際に、有力なアピールポイントとなります。
それでは、翻訳家の仕事には、一体どんな資格があるのでしょうか。
まず、翻訳に特化した資格としては、「JTA公認 翻訳専門職資格試験」「JTA公認翻訳専門職資格基礎試験」「JTFほんやく検定」などがあります。これらの資格試験は、すべて民間のものです。
「JTA公認 翻訳専門職資格試験」
一般社団法人日本翻訳協会が主催しており、翻訳業界の中でも最難関と言われる資格試験です。翻訳の表現力や実務能力の試験のほか、翻訳の実績審査を経て合格すると、JTA公認翻訳専門職として認定されます。
「JTA公認翻訳専門職資格基礎試験」
「JTA公認翻訳専門職資格試験」を目指す、これから翻訳家を目指す人向けの試験です。
「JTFほんやく検定」
一般社団法人日本翻訳連盟が主催しており、4級・5級の基礎レベルと、1~3級の実用レベルに分かれています。実用レベルでは、産業翻訳の実務に合わせた専門分野を選択して受験します。2級以上に合格すると、「日本翻訳ジャーナル」に無料登録することができ、仕事受注のチャンスが得られます。
また、これらの翻訳に特化した資格のほかに、対象言語の語学力検定試験もあります。語学力の証明として取得しておけば、アピールポイントとなるでしょう。特に英語の場合は、英検準1級やTOEIC900点が、翻訳会社の書類選考での足切りラインとなることが多いです。翻訳の勉強と並行して、このような語学の資格も目指すとよいでしょう。
これから翻訳家を目指す方は、これらの方法を組み合わせて勉強していくのが理想的です。たとえば、翻訳専門学校の通信講座で翻訳の勉強をしながら資格取得を目指す、または、大学の外国語学部に所属して、留学のチャンスを得る、なとです。こうすることで、総合的に翻訳者としてのスキルを磨くことができますよ。
安定した収入を得るコツ
さて、以上のような方法で、仕事をもらえるようになったら、もう一人前の翻訳家です。そこから「安定した収入を得る」という次のステップに進みましょう。特に、駆け出しの翻訳家にとって、これは簡単なことではありません。翻訳家になってからも、勉強を続け、スキルアップの努力は欠かせないのです。
以下では、その具体的な方策を見ていきましょう。
自分だけの強み、専門性を見つける
フリーランスの仕事すべてに言えることですが、自分だけの強みや専門性を見つけ、それを伸ばしましょう。こうすることで、よりよい条件の仕事を確実に獲得できるようになります。
特に翻訳は、専門性の強い仕事。産業翻訳なら専門分野の知識が、文芸翻訳なら作品や文化の理解と日本語能力が、映像翻訳なら簡潔で自然な訳文を作る能力が、求められます。したがって、クライアントは、「広く浅くなんでもできる人」よりも、何か特定の強みを持っている人、その分野で実績のある人を選びたいのです。
たとえば大学を外国語学部以外で卒業した人なら、大学での専攻を生かして強みにすることができます。また、ブログを書いたり、自分で文章を書いたりするのが好きな人・それを仕事にしている人は、高い日本語能力を売りにしましょう。
あなたの強みとクライアントの要望が合致すれば、長期的な仕事受注につながることもありますよ。
ITスキルを身につける
翻訳家にとって、語学力と同じくらい大事なのが、ITスキルです。WordやExcelのほかに、翻訳者にとって重要な「CATツール(Computer Assisted Translation、コンピューター支援翻訳)」というシステムがあります。これは、
・過去の翻訳データベースから、訳語の用語集を参照できる
・訳抜けを防ぐために、一文ずつ原文と翻訳文が表示される
といった機能が搭載された、便利なツール。翻訳の正確性とスピードを向上してくれるため、主に産業翻訳では、このツールを使った仕事受注が多いです。
仕事の応募の際に、CATツールが使えることを伝えれば、仕事獲得の可能性が広がるでしょう。
リサーチも重要性を知る
どんな分野の翻訳でも、正確な訳をするためには、入念なリサーチが必要です。特に専門用語や固有名詞は、定訳が決まっていることが大半。本やインターネット、新聞などで、定訳を徹底的に調べ上げる必要があります。また、翻訳する文書の内容についても、自分の知らないことがあれば、調べてしっかり理解することが大事です。
このような、調べものの段階をきっちりと行うことで、質の高い翻訳ができあがります。そして、そのような翻訳は、クライアントからの高評価にもつながるでしょう。逆に言うと、リサーチ不足の翻訳は、クレームにつながったり、次の仕事がもらえなくなったりといった、マイナスの影響が予想されます。
今の時代、インターネットを駆使すれば、国内外のリソースに容易にアクセスできます。ぜひ、分からないことは徹底的に調べる癖をつけて、リサーチ能力を伸ばしましょう。
翻訳ネットワークに所属する
全国各地の翻訳家をつなぐための、翻訳家ネットワークというものが各種存在します。年会費・入会費ありの会員制のものから、紹介制のもの、初心者も入れるFacebookグループなど、さまざまな形態のものがあります。
このようなネットワークに所属することは、翻訳者としてのキャリアに大きなメリットです。まず、ほかの翻訳家の人たちとの人脈ができるので、情報交換ができたり、仕事の縁ができたり、仕事に関する相談をすることができます。翻訳は本来、一人で行う孤独な仕事なので、このような場でほかの翻訳家とつながることは、とても大事。また、コミュニティによっては、プロの翻訳家がセミナーを開いていたり、有益なコラムを配信してくれたりすることも。自分のスキルアップのためにも、このようなコンテンツは積極的に活用するとよいでしょう。
まとめ
この記事では、フリーランス翻訳家になるための方法、そして安定して仕事を得る方法を紹介しました。「翻訳家」という仕事になんとなくハードルを感じていた方も、具体的な手立てが見えることで、挑戦しやすくなったのではないでしょうか?
フリーランス翻訳家は、つねに勉強を続ける必要があり、徹底的に一人で責任を持って行う仕事。大変ではありますが、勉強の仕方から仕事のスタイルまで、自由度が高く、また、強みを生かせばずっと続けていける仕事です。
ぜひ、フリーランス翻訳家を目指している方は、初めの一歩を踏み出してみませんか?
written by Minami
プラハ在住の駆け出しチェコ語翻訳家。
過去に、チェコ共和国オフィシャルブログ(https://czechrepublic.jp/author/mina-toyoshima/)にて、チェコ生活日記を執筆しました。